環境検査について

取扱う食材が食中毒菌等に汚染されていた場合、調理に使用した包丁、まな板、スライサーなどを汚染し、間接的にその他の食品を汚染する事があります。このような二次汚染を防ぐため、調理器具等は常に洗浄、殺菌消毒する事が重要です。また、取扱者の手指が汚染された場合、手の触れた器具、食品、調理台、ドアノブなどに汚染が拡大することもあります。
常に調理環境が清潔に保たれているかの確認、調理者への意識づけのためにも環境検査は重要な役割を果たします。調理器具、手指、手の触れるドア、取っ手などの検査を行なう事が重要です。
検査項目は一般細菌数、大腸菌群、大腸菌について行ないますが、最近は器具等が黄色ブドウ球菌に汚染されている例も少なくないので、黄色ブドウ球菌についての検査も併せて行なうことが望ましいと思われます。器具・環境別の検査の対象となる項目は次の表のとおりです。
◎=必要な項目 ○=望ましい項目
器具・環境名 | 一般生菌数 | 大腸菌群 | 大腸菌 | 黄色ブドウ球菌 | セレウス菌 | |
調理器具 | 包丁 まな板 スライサー ミキサー ザル ボウル等 |
◎ |
◎ |
○ |
◎ |
○ |
調理環境 | シンク 床 調理台 手指等 | |||||
調理器具 | しゃもじ 食器等 |
◎ |
◎ |
○ |
◎ |
|
調理環境 | 前掛け 靴底 水道カラン ドアノブ 配膳台 冷蔵庫・殺菌庫・冷却機等の取っ手及び内側 |
(1)拭き取り法
スワブ法とも呼ばれ、調理器具・調理環境などに付着した菌を綿棒で拭き取り採取し培養する方法です。広い面積以外に、曲部や隙間、手指なども拭き取る事ができます。
(2)スタンプ法
平状な物体表面にスタンプを押すようにして付着菌を採取し、培養後、発育した集落を一定面積当りの菌数として計測します。拭き取り法と比べて操作は簡便で、手軽に測定できます。
(3)ATP法
生きている微生物は、一定量のATPを持っています。蛍の発光原理であるルシフェリン・ルシフェラーゼ反応を利用してそのATP量を測定します。反応時間は2分間で、迅速に検査できます。微生物や食品残渣の汚染度が評価でき、日常的な微生物管理、清浄度管理に適しています。
手指スタンプ検査
食中毒菌の汚染は取扱者の手指を介して広がることも少なくありません。作業前の手洗いを十分にすることはもちろん、作業中の手洗いも重要です。手指スタンプ検査は作業中の状態、手洗い後の手指の状態を再確認し、二次汚染の防止、手洗いの重要性を意識づけるのにより効果的な方法です。
(1)一般細菌用(SCD培地)
外部汚染(汚れ・一時的に付着した微生物)による皮膚の表在菌の除去。汚染度の高い場合の手洗いに関してもその手洗いの有効性を確認し、確実な手洗いが出来る様指導することを目的としています。
(2)黄色ブドウ球菌用(マンニット食塩卵黄加培地)
黄色ブドウ球菌は人の皮膚、鼻、手指等に存在する菌で、特に化膿病巣又は手荒れなどによる炎症などを引き起こす原因菌です。作業中や手洗い前の手指を検査することによって食材や調理器具などへの二次汚染を未然に防止することを目的としています。
【黄色ブドウ球菌保菌者一例です。】
空中浮遊細菌・落下細菌
空中浮遊細菌・落下細菌はともに空気の清浄度の目安とされているものです。浮遊細菌、落下細菌による食品汚染に関しては、加工食品における加熱工程以降、包装に至るあいだでの汚染に注意が必要ですし、非包装食品にあっては常に危険にさらされているといえます。したがって、浮遊・落下細菌の測定とその結果に対する判断、対策においても、それぞれの工場や施設の内容、特殊性等を考慮して総合的になされなければなりません。
地表の細菌が、風によって空気中に運ばれ、浮遊するわけですが、この細菌は通常微細なホコリに付着したり、小水滴内に含まれて浮遊しています。大気中に浮遊している微生物のうち、落下してくるものを寒天平板上に集めて計測するのが空中落下細菌です。
(1)空中浮遊細菌(衝突法)
RCSエアサンプラーにて空気を一定時間吸引し、寒天平板表面に吹き付けて、一定空気量あたりの菌数を測定します。空中浮遊細菌は、空中の塵埃に付着して存在し、0,5μm以上の粒子数(塵埃数)にほぼ比例しますので菌数で表します。
そうざい(弁当調製・包装等)の清浄度はクラス10,000~100,000です。
RCS測定による対NASA空気清浄度クラス別比較表
NASA 清浄度クラス |
RCSによる各測定時間でのコロニー数(CFU) | |
---|---|---|
2分(CFU/80L) | 4分(CFU/160L) | |
クラス10,000 | 1~2以下 | 3以下 |
クラス100,000 | 7以下 | 14以下 |
(2)落下細菌(コッホ法)
一定時間開放した寒天平板上に空中浮遊菌を直接落下付着させ、培養後発育した集落を一定時間当たりの菌数として計測します。開放時間を長くする事により、感度を増加させることもできます。落下細菌法は安価に実施でき、測定が容易です。しかし、落下粒子の落下速度は粒子径の2乗に比例するとされ、沈降しない空中浮遊菌もあります。また、沈降速度は気流に影響されるため、落下菌法は菌数を定量的にとらえることができないとされています。
落下細菌数の判定基準表
区域 | 落下細菌数(5分間開放) |
---|---|
清潔作業区域 | 30個以下 |
準清潔作業区域 | 50個以下 |
汚染作業区域 | 100個以下 |
(直径9cmシャーレ1枚当りの平均値)